Archegos問題でCSが$4.7bnという巨額損失を公表したが、一年間必死に働いて得た収益が一瞬にして吹っ飛んでしまったようなもので、衝撃は大きい。幸いマーケットを揺るがすようなインパクトにはならなかったが、ファミリーオフィスに対する規制強化が叫ばれるようになったのは当然だろう。
リーマンショック時にも何度もファンド破綻を経験したが、マージンコールに遅れた場合に、ファンド責任者からはもう少し待ってほしいという依頼が当然届く。後は他の銀行の出方を見ながらということになるが、経験上すぐに動かなければ負けである。これは債務金額が変化しないローンとは異なり、特にデリバティブ取引の場合は、急速に債務が膨らむような方向に市場が動くのが常である。その後数週間待てるのであれば、資産価格が戻ってくる可能性があるが、その時には既に破綻していて時すでに遅しとなる。
そもそもマージンコールをかけて資金を送金してもらうというプロセス自体が時代遅れになってきているのではないだろうか。今の技術を使えば、損失が膨らんだ段階でリアルタイムに資金移動を行い、口座に資金がなくなった段階で自動的にLiquidationを始めるような仕組みは簡単に作れるように思う。
DTCCの株式決済システムを高度化させれば済むように思うのだが、最近パイロット運用が一時的に認められたPaxosのようなサービスが正式にSECからライセンスを取れば、DTCCを脅かすようになるのかもしれない。ブロックチェーン技術が進めば、こうしたファンドやファミリーオフィス破綻の影響を最小化できるのではないだろうか。この辺りはFTの社説にも報じられていたが全くその通りだと思う。DTCCは2023年までに決済期間を2日から1日に縮小する計画を持っているが、本来即時決済に持っていくべきだと思う。
今回話題になっているトータルリターンスワップのようなデリバティブ取引については、MPOR(Margin Period or Risk)を1日、2日または、2週間のように決めてその間のリスクをカバーすべく当初証拠金などのマージンが決まる。瞬時に決済が可能なのであれば、2日間のリスクをカバーする必要はなくなり、必要証拠金が減る。つまり、よりレバレッジがかけられることになるので、本末転倒という声も聞こえてきそうだが、その分直ちにポジション清算に動けるのであれば、マーケットが極端に動いて巨額損失が発生する前にポジションカットをすることが可能になる。
今回のArchegos事件によって、ファミリーオフィスに対する規制を強化するとか、金融機関サイドがこうした投資家に巨額のリスクを取らせないようにすべきといった議論が盛り上がっている。しかし、そもそも、ある程度損失が膨らんだ時点で強制終了し、こうした巨額の損失が発生しないような仕組みを作ってしまえばよいのではないだろうか。