SECの新議長となったゲンスラー氏が早速動き出している。金融危機時には銀行を目の敵にしていた印象を持たれていたたが、さすがに金融規制については熟知しており、今後の行動力に期待すら集まる。
その中で、ファイナンスとテクノロジーの融合の重要性を説いており、それに政策立案者がどう対応するかという点に注目していた。今年前半に見られた市場変動の要因として、彼は以下の7つを挙げている。
- ゲーミフィケーションとユーザーエクスペリエンス
- 支払いフロー
- 株式市場構造
- ショートセルと市場の透明性
- ソーシャルメディア
- Market ”Plumbing”:清算と決済
- システミックリスク
Market ”Plumbing”はマーケットの導管(マーケットを機能させるインフラ)とでも訳すのだろうか。何となくニュアンスはわかるが。
そして、時間はリスクであるとして、決済期間の短縮を訴えているが、これには全く同感である。テクノロジーの進化によって即時決済を含む決済期間の短縮は技術的には可能になっているはずである。マージンコールなどの即時決済、ポジションの即時把握が可能になれば、ゲームストップやArchegosのようなショックは、完全に防ぐところまでは行かなくとも、ある程度の損失で止められた可能性がある。
SECのスタッフに、決済サイクル短縮化のための検討を指示したと言っているので、今後間違いなく決済のT+1、ひいてはT+0化が加速するだろう。奇しくもRobinhoodのCEOも時代遅れの決済システムに対する不満を表明していた。DTCCもまずはT+1化に向けて動き出しているようで、これにより所要証拠金の削減の可能性にも言及されている。
現在、証拠金や資本計算にはMPOR(Margin Period of Risk)というものが使われているが、これはマージンコールの支払いが滞ってからデフォルトしてクローズアウトするまでの期間だが、決済期間が短縮されれば所要担保額が少なくなるはずである。
こうなると、世界で最も金融決済が遅れている日本がまた世界から取り残されることにならないか心配である。債券等の決済期間を遅らせてほしいというリクエストの数は世界一である。ゴールデンウイークがあるから、年末年始だから、在宅勤務が多いからという理由まで様々だが、グローバルには有名な話になってしまっている。証拠金規制でもT+1等の期限が切られていないのは日本の規制だけである。「直ちに」とルールには書かれているが、これを海外に説明するのは非常に難しい。
おそらくこれは、システムコストをかけたくない、人手で対応した方が安いという理由の他に、期限に後れることに対する嫌悪感という文化的な要素もあるのかもしれない。金融はどうしても欧米主導なので、期限に後れてもフェイル扱いにしてフェイルチャージを払うというのが一般的になっているが、日本だとフェイルをデフォルトのように扱うところもある。
いずれにしても決済システムの高度化とシステム化をもう少し進めていかないと、アジアの他国にも完全に後れを取ってしまう。ここまでくると規制でシステム化を強制するしかないのかもしれない。