望ましいCCPの破綻処理とは

英国で提案されたCCPの破綻処理が議論になっている。2月に公表された英国財務省の案は、CCPがデフォルトに陥りそうになった時に英国中銀に権限を与え、CCPの規則によらずに中銀が迅速に行動を起こせるようにし、金融システムの安定を図ろうというものである。

この提案では、清算基金のようなCCPの参加者への債務を帳消しにしたり、CCPの規則で認められた範囲を超えて追加資金を要求できるようになっている。この追加資金拠出は日本のCCPであるJSCCでも取り入れられている手法だが、無限拠出を避けるため清算基金と同額程度にキャップされていることが多い。まだ全文を読んでいないのだが、どうやら英国中銀はこれを2倍にまで引き上げようとしているようだ。さらに参加者破綻に起因しないデフォルト時には、VMGHが使えないので、これを3倍としている。VMGHとはVariation Margin Gains Haircuttingの略で、要は勝ちポジションを持っている参加者がそれをあきらめるというものだ。

思い起こせば、日本はもともと市場参加者にほぼ無制限に資金拠出を求められる無限責任の形をになっていたため、国際的に批判を集め一定のキャップを設けることになった。今回の英国中銀の提案は、昔の日本のやり方に一歩近づくということになる。

これに関しては様々な意見があろうが、個人的には、もしCCPが破綻するようなことになれば、大規模銀行の破綻と同じような市場混乱が起きるため、何らかの形で当局が介入してくることになる気がしている。その意味で無限責任に近い状況になる。日本の場合は無限責任といっても多くの金融機関を破綻さぜるようなことはないから、きっと日銀が介入して資金を提供するのではないかという憶測からか、当局には逆らえないからか理由は定かでないが、昔から無限責任が問題視されることはなかった。

ただし、海外の資本規制上は、将来的に損失や資金負担が発生するのであれば、それを資本計算や流動性に加味して業務運営をしなければならない。したがって、上限なしに資金拠出が求められれば所要資本が増加してしまうため、一定の上限が必要である。CCP破綻時の追加拠出を別扱いにして、資本、流動性規制上の数字に加味しなくても良いということであれば無限責任でも問題なかったのかもしれない。

今回の英国中銀の提案が所要資本の増加につながるのであれば、銀行にとってはたまったものではないだろう。いずれにしてもCCPの破綻規制と資本・流動性規制のバランスなので、本来であれば当局サイドが、すべてのピースのバランスを取った上で規制を決めればよいはずの話のように思える。

現状市場参加者は、CCPの規則に則って取引清算を行っており、その前提で資本計算等を行っている。中銀がこれらのルールを逸脱した権限を持つことが参加者にとってプラスになるのかマイナスになるのかは実際にそれが起きてみないとわからない。今回の文書上も参加者に過度の負担を負わせるものではないというコメントもみられる。NCWO(No Creditor Worse Off)というコンセプトで、CCPの株主、清算参加者が不利な状況に置かれたときに補償するという規定だ。

とは言え、やはりCCPを企業体として存続させるという意味においては、通常の企業と同じように資本を厚くするというのが本来のやり方なのであろう。CCP破綻時には国の関与が予想されるとは言え、国の資金を投入することに対しては世論の反発も出るだろう。特にリーマンの経験があるからか、海外では過度の資金投入は困難だ。CCPの資本という意味ではSIGまたはSITGと言われるCCPの自己負担分を増やしていくのが王道なのだろう。SIGはSkin in the Gameの略で、企業経営者が事業に自費をつぎ込む際にも使われる言葉だが、破綻処理において使われるCCPの負担分を指す。

参加者のリスクに見合った負担がIM(当初証拠金)、自分のリスクではないが全体のために負担するのが清算基金、CCPの負担がSIGとなるが、この3社のバランスが最も大事だと思う。国際的にこの3つの適正負担割合を決めるのが望ましいというのが個人的な意見だ。こうなると勝ち方負担のVMGHなどは本来は望ましくないのだろう。VMGHがあると、CCPに破綻可能性が上昇した時にメンバーがVMを減らそうと躍起になり、銀行の取り付け騒ぎのような動きによって市場変動が加速してしまう可能性も否定できない。

今回は追加SIGといった概念も提案されており、5月28日までコメント募集となっている。どのようなコメントが寄せられるか注目が集まる。