先月、地銀を対象としたストレス時対応力の強化に向けたモニタリングレポートが金融庁から出されているが、同時期にLBOローンに係るモニタリングレポートや粉飾等予兆管理態勢の高度化に向けたアクション・プログラムなども公表されている。金融庁サイドの異動の時期に併せて年間の集大成として出しているのだろうか、いずれにしても地銀を中心とした金融機関のリスク管理高度化を求める動きが加速しているように見える。
4月に出されたカウンターパーティー信用リスク管理に関するガイドラインでも触れられていたが、グループ管理やすべてのビジネスラインを含むストレステストが重要というメッセージを良く目にするようになってきた。すべてのビジネスラインや拠点を含んだエクスポージャー計算ができないと、本当の意味でのリスクが計測できない。
そもそも海外現法の場合はプライシングモデルが異なるといったことがあると、同じ取引であってもグループ内で評価方法が異なるということになってしまう。欧米の監査においては確実にアウトなのだが、日本においては、システムや与信管理のグループ内統合については、これまで厳しく言われてこなかった。しかし、グループ全体でエクスポージャー計算やストレステストをしようと思うと、不完全な結果になってしまう。また、ブックする拠点を変えれば収益が上がるということも起きてしまう。もちろん、そんなことを行うところはないだろうが、内部取引でリスクを各拠点間で最適化している欧米金融機関と同じことを行うのが困難になってしまう。
今回のストレステストに関するモニタリングレポートにおいては、望ましくない事例が「懸念事例」として紹介されているので、今後はこうした事例に当てはまらないようにストレステストを強化する必要がある。そして「参考事例」として模範事例も紹介されている。
たとえば、軽微なストレスシナリオしか考慮していない、ストレス時でも自己資本比率が十分かどうかの検証が不十分、アクションプランが未検討、営業部門が不関与、ストレステストが経営判断のツールとして使われていない、グループの対象範囲が規定にないといった問題のある金融機関が一定数、または少数ながらあったという結果になっている。
おそらく海外のストレステストに関するガイドラインなども参考にしているのだろう。グローバルガイドラインと似たような内容の指摘が散見される。ただし、こうしたガイドラインが出たからと言って、コンサルや第三者に丸投げして体裁だけ整えていると、経営陣の理解が足りないという批判を受けることになる。
海外当局も経営陣に対しては、リスク管理に関して細かい質問を常に投げかけている。したがって、JPモルガンなど大手銀行のトップなどは、規制やリスクに関して異様に詳しい。特にストレステストの結果によって配当や自社株買いに制限がかかってしまう米国などでは、かなりのリソースをこうしたリスク分析に割いている。株主総会でもリスクやストレステストに関する議論をトップ自らが引っ張っている。経営陣がリスクを把握するツールとしてはストレステストは極めて有効な分析である。
今後は日本でも様々なストレステストが行われることになっていくだろうが、コンサルやベンダー丸投げではなく、実効性のあるリスク管理強化が求められる。