レポ取引のヘアカット問題

CVAの黎明期は、金利スワップ、通貨スワップなどのデリバティブ取引を中心にチャージを計算しており、その後為替、コモディティと対象を広げてきた。その中でレポについては歴史的にCVAという概念がなかった。したがって、レポのカウンターパーティーリスク管理のみ担当部門が異なっていた銀行が多いものと思われる。

昨今ではすべてのプロダクトを扱うようになったため、スワップのIMに相当するレポのヘアカットも同じような計算をした方がよいという話が出てきている。しかし、レポに関しては昔からの慣行で国債のレポは2%とか5%のように単純に決まっており、金利スワップのように、年限毎に異なるIMを取ることが難しいことも多い。また、証拠金規制のように双方が担保を出すというよりは、一方のみが担保を出すような形になっている。

とはいえ、10年スワップのリスクと10年Underlyingのレポのリスクはほぼ似たようなものなので、本来はスワップのIMと10年債参照のレポのヘアカットは同じようなレベルになるはずなのだが、相対取引だと過去の経緯もありこれがなかなか難しい。

一方CCPでクリアリングする取引の場合は、同じようなVaR方式を使っているため、IMは同じくらいになっている。したがって、レポをクリアリングすると必要担保額が増えてしまうので、相対で取引をしたいという市場参加者が増えてくる。レポに清算集中規制がないのでなおさらである。資本コストを気にする銀行サイドとしては相対でレポを行うとバランスシートを使い、レバレッジ比率の悪化を招くので取引がしずらい。こうして世界で最も流動性があるはずだった国債のレポの使い勝手が悪くなり、ひいては国債の価格変動や流動性低下を招くことになってしまう。

特に、昨年大きな金利変動のあった英国債のレポの担保が著しく引き上げられている。長期の物価連動国債のIMに至っては25%にも達すると言われている。相対でレポをすればヘアカットは2%なので、極力クリアリングを避けようという市場参加者が増えても不思議ではない。

通常はProcyclicalityの観点から、IMが急激に上がったり下がったりするのは望ましくない。そのため、Volatiltyにフロアを設けたり、過去最大の市場変動や架空のシナリオを追加することにより、市場が落ち着いた時にもIMが下がらないような仕組みが検討されてきた。今回は全く逆で、Giltショックによって上がりすぎたIMを何とか早くもとに戻せないかということでLCHが何らかの変更を検討しているとのことだ。

ただ、あまりにIMの水準を低くすると99.99%のように決めたバックテストの基準を下回ってしまうので、バランスを取るのが難しい。だが、25%のIMというのはかなり大きく、クリアリングを使うインセンティブがなくなってしまうことから、これを引き下げるような変更が行われると予想される。やはりリスク管理の基本に立ち返って、Expected LossまではCVAでカバーし、99%などのテイルまでは担保でカバーし、それ以外は資本(CCPの場合は清算基金)でカバーするというのが王道なのかもしれない。