市場変動が起きると必ず繰り返されることだが、今回は原油価格とクレジットスプレッドの動きからCVA損失が膨らんだケースが散見された。海外で石油会社と金利スワップを行った後に、金利急低下が起き銀行の勝ちポジションが増えたが、それと同時に原油価格が急落し、石油会社のクレジットスプレッドが拡大、クロスガンマヘッジが効かずCVA損失が急拡大してしまったというものだ。
原油価格が下落した場合にこれが必ず起きるというのであれば、原油ヘッジをするというのも理にかなっているが、CVAモデルにそのような影響を組み込もうという動きもある。同じことは為替ポジションでも起きるが、例えば円高に振れるとクレジットスプレッドが拡大する自動車会社のようなカウンターパーティーと金利スワップを行った場合は、直接為替リスクを抱えている訳ではないが、CVA計算に為替のインパクトを入れるというものだ。
そもそもCDSの流動性が高ければこのような問題が大きくなることはないのかもしれないが、個人的な経験でも、ひとたび危機が発生してCDSスプレッドが急拡大すると、その時点でCDSヘッジを買おうとしても時すでに遅しである。このような状況は、海外よりも日本において顕著に表れる傾向があると思う。通常時は10bpもないビッドオファーが一気に20、50と上がっていくのは危機下にあるマーケットでは珍しいことではない。
ここで無理して極端にワイドなビッドオファーを払ってヘッジをするより、しばらくマーケットが落ち着くのを待ってからヘッジしようというのはトレーダーとして自然な心理である。とは言え、リーマンショック時のように、マーケットが落ち着くことなく、一方向にワイドニングを続けるということもあるので、あまり「待つ」というオプションに頼り続けることもできない。
ここで、これ以上のCVA損失を避けるために、一部のXVAトレーダーは、いくらか為替、金利、コモディティなどのオプションを買ってヘッジするということを行っているのではないかと思われる。当然これらのヘッジはいわゆるマクロヘッジの一環であり、資本計算上ヘッジとして認められるわけではない。
こうなると、iTraxxなどのインデックス物に需要が集まるのは当然のことである。実際、3月のコロナショックでは欧州のインデックスCDSの取引量は倍増している。CDSの場合は株式に比べて、危機時にはすべての銘柄がワイドニングする傾向があるので、CDS indexヘッジはある程度正当化される。
ただし、今回3月まではすべてがワイドニングしていたところ、4月に入ると元に戻る銘柄とそうでない銘柄が二極化した。優良銘柄やインデックス物がタイトニングする中、引き続き懸念のある業種の銘柄などは、引き続きワイドニングが拡大し、実際のヘッジも個別CDSヘッジが増えている。個別のヘッジが増えるとさらにCDSが拡大するといういわゆるNegative Feedback Loopが起きる。これは欧州ショック、ギリシャショックの時に起きたことと同じである。当時は確かEURの金利が低下するとともにCDSが拡大を続けたためにさらなる金利リスクヘッジが必要になり、それが金利をさらに押し下げるという負の循環に陥ってしまった。
ここのところのマーケットは落ち着きを取り戻しているが、3月4月のような動きを見てしまった海外のXVAトレーダーの間では、もう少しCDSのOptionを取引してもよいかという議論が上がっているようだ。日本ではほとんどCDSのOption取引は見られないが、何か新しいヘッジを考えないと、また個別CDSを高値で掴まされて安値で売るということの繰り返しになりかねない。
やはり、様々なツールを使ってマクロヘッジをしていくしかないと思うのだが、そう考えるとXVAトレーダーは完全にトレーディングとなる。よくXVA管理はトレーディング業務かリスク管理業務かという議論が巻き起こるが、マーケット感覚のないリスク管理者が機械的にヘッジをすると、高値づかみの安値売りの典型例になってしまう。やはりXVAトレーダーには常にマーケットをモニターし、取引に参加していくトレーディングスキルが必要になるように思う。