レバレッジ比率規制などによって国債やレポ取引の流動性悪化がみられたが、SA-CCRやアルケゴス移行のカウンターパーティーリスク管理の強化により為替やその他のマーケットにも影響がみられつつある。
SA-CCRの影響は今に始まったことではなく、最も市場を騒がせたのは米系が新方式に移行した2022年の初めである。従来のCEMでは1年未満の為替取引などには資本コストがほとんどかからなかったものが、SA-CCRに移行した途端に資本コストがかかるようになり、短期の為替取引のBid-Offerが拡大した。
このころから為替の資本コストが意識されるようになり、市場変動が起きた時、四半期末などに市場が逼迫し、為替の流動性にアクセスできない市場参加者が出てきた。とはいっても、平常時には競争上のプレッシャーから、ディーラーサイドもあまりBid-Offerをチャージする訳にもいかず、為替が低収益性ビジネスとして苦境に陥るようになった。だが、引き続き為替取引に対する顧客ニーズは強く、取引量自体も増え続けている。
その中で生まれてきたのが顧客のティアリングである。海外大手銀行は、為替取引だけでなく、全体としての取引収益を考え、重要顧客に対しては、為替で損をしたとしても顧客関係全体から収益が上がっていれば、為替取引やレポ取引などをサポートし続けるというモデルに代わり、最近のRisk.netの記事でもこの慣行が報じられている。
こうなってくると、為替取引が一方向に偏りがちなアジアの市場参加者への影響が大きくなる。おそらく大手ディーラーは、ディアリングを開示することはなく、営業担当はいつも最良のプライスが出せるよう努力をするので、あまりこの変化を感じられないかもしれない。これが表面化するのは、やはり市場急変時や四半期末などの銀行のバランスシート、資本コスト削減が意識される時になる。
最近サブプライムオートローンに端を発するクレジット市場における破綻が起きているが、リーマンショックとまではいかなくとも、何らかのショックが起きた時にアジアの市場参加者がドル調達に窮することになるかもしれない。ヘッジファンドなどは、あまり為替のポジションを一方向に偏らせたりしないうえ、解約の頻度も高いため、枠が一杯になるということが少なく、たとえ一杯になったとしてもすぐにポジションを動かせる。しかしアジアの銀行や生保などは、米国債やモーゲージ、米株への投資を行う際にドル調達が必要になり、それを通貨スワップやフォワードでファンディングしているため、いざというときにファンディングがロールできず、資産売却に追い込まれる可能性が懸念される。
特に台湾の生保などは巨額の米国資産への投資を行っており、ヘッジ比率も高い。決算期末のヘッジ調整により台湾ドルのフォワードポイントが極端に動くことも多い。韓国でも保険会社や年金、銀行のドル調達取引は多くこれも主に1年未満の為替取引でファンディングしている。オーストラリアはSuper fund (Superannuation)が活発に為替ヘッジを行うようになっている。香港やシンガポールではソブリンウェルスファンドやアセマネのドル調達ニーズがある。当然日本で銀行や生保のドル調達ニーズが高いのは言うまでもない。
これらのドル調達ニーズに応えるためには、欧米銀がアジアの市場参加者にドルを提供することが多いが、これはWWRを持つ誤方向取引になる。欧米銀がスポットでドルを貸してフォワードでドルを返してもらうので、現地通貨安になったときに現地の市場参加者に対するエクスポージャーが増えてしまう。したがって、ここにWWRのリミットや信用リミットを設けるのが普通で、ストレステストなどを組み合わせて制限をかけているはずである。この傾向はアルケゴス以降顕著になっている。
こうした環境の中では、既に当局が警鐘を鳴らしているように、危機時におけるドル調達能力を確保し、普段からこのリスクが高まりすぎないように、ポートフォリオを管理していく必要がある。マーケットが何となくきな臭くなってきた今、特にこうした準備が求められる。