資本規制のマーケットインパクト

FED高官から、カウンターパーティーリスクに関する内部モデル方式が使えなくなるというコメントが出ている。これを利用しているのは大手銀行だけなのと、既に大手行先進的手法に重点を置いた経営をしていないため、あまりインパクトはないと思われるのだが、一応マーケットでは話題になっている。

米国におけるバーゼルIIIプロポーザルの最終化は、人事問題もありずれ込んでいるが、本年(2022)末から来年初めくらいになる見込みだ。SA-CCRへの移行にともない短期の為替マーケットに混乱が生じていることを考えると、無視することはできない。SA-CCRが入ることは大分前から明らかになっており、真剣に計算しようと思えばその影響を見積もるのはそれほど難しくないはずなのだが、今回のSA-CCR移行を巡る市場の変化は若干サプライズである。こういった資本の変化等への対応はミドルや企画部門の力の強い邦銀の方が得意なのかもしれない。ただ、米国の資本規制の複雑化がこのような対応の後れを招いているような気もする。

米銀大手行は先進的手法と標準的手法の両方でRWAを計算する必要があるが、Collins Floorがあるため、そのうちの高い方を適用しなければならない。現状大手8行はすべてこのフロアをヒットしている。うつまり標準的手法>先進的手法となっている。標準的手法はオペレーショナルリスク、CVAに加え一部のデフォルトリスクの低いローンを除外できるため、結局この除外項目がキーになる。

バンカメは二つの手法の差が最も大きく約$219bnとなっており、最も差の小さいState Streetは$658mm程度なので銀行によるばらつきも大きい。先進的手法にはオペレーショナルリスクRWAが含まれるが、これの削減が進んだことも要因の一つだろう。

このように先進的手法の意味がなくなってくると、銀行としては、それに人手とコストをかけてモデルを強化しようというインセンティブが全くなくなる。このほかにStress Capital Buffer、Countercyclical Capital Buffer、CCARなど様々な資本規制があるため、何をすればROEが向上するのかがわかりにくくなっているのではないだろうか。SLRが最大制約になっていた頃は、バランスシートの削減、デリバティブ取引の元本削減と、やるべきことははっきりしていた。以前のバーゼル1、2の頃もそうである。規制資本の専門家にコストを聞けば、昔はすぐに答えが返ってきたが、今ではあまりにも複雑になっているため、誰も判断ができなくなっているのではないだろうか。

資本計算を担当する部門は、保守的に計算をする傾向がある。そうでないと後で当局に指摘でもされれば責任問題になる。デフォルトで最も保守的な格付やLGDがシステム的に入れられて、その後更新されていないというケースもあるかもしれない。何か、今市場で起きているRWA騒動は少し極端な気もする。