証拠金規制のIM免除規定の落とし穴

初めからわかっていたことではあるが、証拠金規制の免除規定について懸念が生じているとの記事がRisk誌に出ている。これは例えば米国規制の場合、計算された当初証拠金(IM)所要額がIM Thresholdの$50mmを超えない場合は、当初証拠金を拠出するための契約書、カストディアンのアレンジ等が必要なくなるというものだ。

おそらく旧ブログでもどこかで書いたと思うが、これはあくまでも計算された当初証拠金所要額が$50mmを下回ることが前提であり、そのためには当然その所要額のモニタリングが必要になる。$50mmを下回る場合に当初証拠金の授受が不必要になるのは朗報ではあるものの、それを超えてきた時には速やかに担保拠出を始めなければならないが、契約を締結して担保授受のプロセスを確立するには、早くても数か月かかってしまうだろう。したがって、結局はIMの金額を日々計算してモニタリングしていく必要があり、そのためにはSIMMモデル等を準備しておく必要がある。IMの計算モデルは当局承認が必要だが、これもすぐさま取得できるというものではない。

おそらく通常時の当初証拠金所要額が$10mmを下回り、日々の取引がそう多くない場合にはそれほど問題ないのかもしれないが、規制対象外の古い取引が多い場合は、時間が経つにつれて規制対象取引が増えていくため、不断のモニタリングが必要になる。Arcadia等IM所要額をモニタリングするシステムを提供しているところもあるが、一定程度の市場参加者であれば、完全に丸投げするのではなく、ある程度の理解と説明が求められるだろう。

当初この免除が明らかになった時には、対象の参加者の間で安堵の声が聞かれていたが、個人的にはあまり意味のある免除とは思えず、結局準備を進めておいた方が良いというアドバイスをし続けてきたが、業界でこうした対応をしているものなら誰もが推奨してきたことである。特にスワップディーラーにモニタリングの義務が課される米国規制と異なり、双方に義務が発生する日欧の場合は、問題がさらに大きい。欧州はこれを米国のように変更するのではないかという報道が見られ始めているが、日本の場合は、バイサイドなど金融機関以外の市場参加者が知らないうちに規制違反となる可能性が否定できない。ディーラーにモニタリングをして欲しいと依頼するところもあるだろうが、それでミスがあった場合はディーラーではなく当該市場参加者の責任となってしまうのである。

とは言え、日本の場合は今後の対象になってくるフェーズの参加者の数が限定的で、こうした対応ができそうなところが多いので、実はあまり心配する必要はないのかもしれないが、まだ検討が進んでいない場合は早急に準備を進める必要があるだろう。