英国のDear CROレターが日本市場に与えるインパクト

10月5日に英国中銀から大手行のChief Risk Officer宛にカウンターパーティーリスクに関するレターが送られている。これは2021年のDear CEO Letterに続くものだが、Dear CROレターとでも言うのだろうか。英国中銀のフラストレーションが表れているのか、「前回伝えられたメッセージへの対応が完全になされていないのは遺憾である」と辛らつなコメントが見られる。

前回はアルケゴス破綻の後ということで、ファミリーオフィスやヘッジファンド向けのカウンターパーティーリスク管理やプライムブローカーサービスに関するリスク管理の高度化に各行とも力を入れていたが、どうやらそこが懸念の中心ではなかったという書きぶりだ。Bank of Englandが期待していたのは、アルケゴス破綻を受けて、それをその他の商品やビジネスへのRead across、つまり同じ検証をその他の分野でも行うことだったようだ。そしてその中心になっているのはアルケゴス破綻の原因となったEquity Financingではなく、債券部門の証券貸借取引やその他関連取引とされている。つまりレポや通貨スワップがやり玉に挙げられている。

たまたまアルケゴス破綻という事件はあったものの、当局が求めていたのは、それに対応する業務改善ではなく、カウンターパーティーリスク管理全般に亘るより大きなリスク管理の高度化であり、今になって考えてみるとそれはレポと通貨スワップだったと言っているように読める。

12月までにはさらなる改善プランを示さなけれはならないので、おそらくどこの銀行もこのレターへの対応に追われているものと思われる。そしてこのレターに書かれていることを考慮することが、今後のリスク管理に不可欠になっていくのは間違いない。海外ではコンサルティング会社も含めてかなりの作業を進めているようであり、業界スタンダードが確立されつつあるように思う。過去にも同じようなことが何回かあったが、その都度日本やアジアの銀行の対応が遅れ、いつの間にかインダストリースタンダードが出来上がってしまっていた。したがって、日本でもこの内容に注意を払っておく必要がある。

例えば、日本では長年カレントエクスポージャー方式に近い想定元本×%でデリバティブのリミット管理をするところが多かったが、海外ではPEによって枠管理をするのが標準となっていた。日本だけ信用リスク管理の手法が異なってしまったのだが、規制のグローバル化にも注意を払っておく必要がある。今回のレターでは、PE方式の不十分性を強調しており、何らかのストレステストを枠管理に導入することを提唱している。といってもこれは最初のDear CEO Letterにも書かれていたので、すでに大手行の間では主流になっており、すでに導入を終えているところが多いものと思われる(ただし日本ではあまり聞かれない)。MPORの厳格管理もすでにモデル変更を行っているところが多いだろう。

今回フォーカスとなったレポについては、昨年後半から海外ヘッジファンドによるJGBショートに絡む取引が多くなり、流動性がひっ迫した。日銀が国債買い入れを増やしたため、レポ市場も激しくひっ迫した。通貨スワップについては、ドル調達が常に日本の当局からの懸念事項として挙げられているが、そのサイズも無視できないサイズになっている。その意味ではグローバルバンクでも日本のリスクについての注目が高まっている。集中リスクについても重要な課題とされているが、日本のJSCCに集中したレポ取引はかなりのサイズになる。

また、通貨スワップについては、今回のLetterでも誤方向リスクについて言及されているが、日本の市場参加者がドル調達をする場合にグローバルバンクと行う為替スワップや通貨スワップは、グローバルバンクから見るとGeneral Wrong Way取引となる。したがって、状況によっては、そのキャパシティに制約がかかる事態が容易に想像できる。

このように、英国当局からのレターは、日本のマーケットについても極めて重要な内容を含んでいるため、詳細な内容については後ほど別記事でさらに詳しく見ていきたい。