米国債取引のクリアリングに意味はあるか

米国債を中央清算機関経由で行うというプランが出され、議論が巻き起こっている。このブログでも何度か書いてきた通り、コロナ前とコロナの最中に米国債マーケットが混乱した。SLRなどの規制により銀行のリスクテイク能力が低下し、市場機能が混乱したためだ。これを防ぐためにコロナショックの最中に米国債をSLRの計算から外すという一時的免除が行われたが、これはあくまでも一時的なもので延長はされていない。

一時的免除が切れた際には、クリアリングを含めた米国債マーケットの市場改革が行われることが同時にアナウンスされたが、ようやくそれが形になって表に出てきている。確かにクリアリングをすればSLRによる足かせがなくなるが、今度はマージンやクリアリングフィーなどの追加コストがかかる。金利スワップの場合は、カウンターパーティーリスク削減効果と規制資本削減効果がコストを上回ったが、そもそもカウンターパーティーリスクのない米国債のキャッシュ取引に対してそれほどのメリットがあるかどうかが焦点になっている。

同じく米国債でも、レポ取引の場合はカウンターパーティーリスク削減が可能になるため、ネッティング効果も相まってメリットがあるだろうが、現物取引のクリアリングには反対意見も多く聞かれる。来週NY Fedがこの件に関してカンファレンスを行うが、議論の行方が注目される。

そもそもなぜクリアリングが望ましいのかおさらいすると、ある銀行が、Aさんに国債を100億円売ってBさんから100億円買うと、それぞれ100億円の金銭の支払いが発生する。これをクリアリングすると、双方が対CCPとの取引になるので、資金移動が発生しない。CCPがBさんから受け取った国債をAさんに渡し、その対価として資金をやり取りすれば良い。銀行としてはAさんのリスクもBさんのリスクも負わない形になる。

スワップやレポでは、このカウンターパーティーリスクが消えるという点が非常に重要であった。しかし、国債の売買の場合はカウンターパーティーリスクがほぼ発生しないので、債務負担をせずにCCPが単にオペレーションだけを行えばよいのではないだろうか。ネッティング効果は得られるし、オペレーショナルリスクも減る。決済を保証するわけではないので、かかるコストも少なくなる。とういことで個人的には、レポやCCPによる債務負担、国債の現物は仲介だけを行い債務負担はしないというのが最も望ましいスキームのように思える。LCHのSwapAgentを米国債に適用するようなイメージだ。

当然決済リスクを減らすための方策は必要だが、同時決済等の仕組みを使えば何らかの手当が可能なのではないだろうか。SLR上の削減にはつながらないが、フルのクリアリングを行うと、SLR削減の効果を上回るコストが発生してしまうように思う。

NY FEDの分析では、CCPを通じて決済すれば2020年3月の市場混乱期にグロスの決済額が60%削減できていただろうと報告している。確かに市場参加者全員がCCPを使えばこれが可能になるのだろうが、コスト増を嫌う参加者も多いことから、清算集中義務でも課さない限りはここまでの削減は難しいと思う。であれば、債務負担なしの仲介でも同じ削減ができるのではないだろうか。