昨年9月のGiltショックで、多くのファンドが手持ちの英国債の売却を余儀なくされた。急激な金利上昇によって固定金利を受けていたファンドが金利スワップの負けポジションをカバーするために、現金担保の拠出を求められたからだ。
これを受けてファンド側では、担保契約であるCSAにおいて現金ではなく、国債や社債を担保に出せるようCSAの条件変更を銀行に依頼するところが増えた。だが、担保を変更すると取引自体のValuationが変わってしまうため、取引から損失が出たり、その後の取引のコストが上がってしまうというデメリットもあった。
今回BlackRock等が英国債のレポ取引の証拠金に社債を含むことを模索しているという報道があった。社債を担保に資金調達をする社債レポではなく、国債を担保に資金調達をする国債レポだが、その変動証拠金に社債を使えるようにしたというものだ。当然CSAでカバーされる金利スワップと同じようにレポについても担保条件が変わればValuationが変わるはずである。しかし、昔からレポ市場とデリバティブ市場の分断があったため、レポの担保に社債を使う方が受け入れられやすいのかもしれない。
当然理論的には全くおかしな話なのだが、当初CVAデスクができた頃は、通貨スワップや金利スワップからクレジットチャージの導入が進み、その後為替やコモディティなどの他の商品に拡がり、レポは蚊帳の外だった。レポの場合は、契約もISDAではなくGMRAで取引されており、別扱いされることが多かった。CVAトレーダーもレポに関してはコストをチャージするところは少なく、会計上もレポ取引にCVAなどの評価調整を入れているところは少なかった。当時は無担保取引にフォーカスが当たっており、ThresholdがゼロのCSAで行われる取引についてはCVAが無視されることも多かったので、レポについても同様の感覚だった。というよりはCVAトレーダーがレポ取引のリスクを取るところは少なく、レポトレーダーが自らリスク管理をしていたというのも大きな理由だろう。
その後CVAがXVAへと広がり、様々な取引についてXVAを考慮するのが一般的になり、当然レポ取引についても同じような扱いをするのが当然だろうということになり今に至っている。それでも、レポのヘアカットはデリバのIMより少なかったり、XVAを細かくプライシングする慣行がなかったりと未だに別扱いが継続しているところが多い。したがって、レポ取引の担保に社債を受け入れたからといって、Valuationを変えないところも多いのではないかと推測される。つまりISDA/CSAではできなかったことがGMRAなら若干の文言修正を入れれば簡単にできてしまうということである。BlackRockなどがこれを狙って社債の受け入れを進めているかどうかは定かではないが、意外と市場に拡がっていく可能性がある。
一応受け入れる社債にはA-以上といった格付制限があり、20%を超えるようなヘアカットが適用される。取引コストもそれなりに要求されるだろうが、それでも担保不足から突然資産売却を求められるよりはましである。社債レポによって直接ファンディングをするよりはコストが安いとのことである。市場が効率的であればこのようなことは起きないのだろうが、レポのXVA、当初証拠金の徴求(IM vs ヘアカット)、担保条件のプライシングなどが整合的に行われていないため、このような裁定機会が生まれてしまうのだろう。まあ短期だからValuationの違いは少ないため目をつぶってしまっても大きな影響はないというのが本音なのだろうとは思う。