G30(金融問題に関して様々な調査を行う国際的団体)のWebinarで、前米財務官のガイトナー氏が米国債市場の流動性問題に言及している。本人のコメントはYutubeでも公開されている。この中で、米国債の流動性低下を懸念しており、米国レバレッジ比率であるSLRを見直すべきと述べている。
Covid-19による市場混乱期には米国債と連邦準備預金をSLRの分母から一時的に外したが、昨年2021年3月にその期限が切れている。その際にSLRの見直し作業に着手するという発表があって、市場の期待が膨らんだが、その後特に具体策は出てきていない。今年2022年中には、バーゼルIIIの最終化に向けて市中協議を行うことになっているが、来年以降にずれ込むのではないかという意見が多い。そうすると2025年くらいまでは実際の施行には至らないということになる。
最近発表されたCCARの結果によれば、SLRが以前のような最大制約にはなっていないように見えるが、それでも大手銀行にとっては無視できないほどのインパクトがある。
今回はCiti、BoA、JPMのストレス資本バッファ―(SCB)が大きくなり、さらなるRWA削減が必要になっているが、これによって確かに市場流動性に問題が生じているように思う。もちろんその他の要因もあるだろうが、RWA制約がそれに拍車をかけているのは間違いない。これは米国債に止まらず、短期の為替取引などでも顕著である。
日本市場の流動性も直近極端に低下した。これは日銀の政策変更に対するSpeculationの方が大きいと思われるが、銀行のリスクテイク能力が下がっているという点では同じような問題なのかもしれない。この流動性だと、頑張って顧客のフローをつけた方が損をするという状況になってしまう。この間の先物 vs CTDショックのような市場変動が起きるとトレーダーも怖くて取引ができなくなる。
たとえ10年の金利は抑えられたとしても、抑えきれない部分については同様の波乱が起き続けるのだろう。そしてトレーダーが退場を余儀なくされ、更に流動性が低下し、ビッドオファーが開くことになる。それでも節約志向の強い日本では海外ほどにビッドオファーが開かず、それが更なるトレーダーの退出を招くという悪循環にならないか心配だ。YCC下の市場に慣れ切った平均回帰を狙うトレーダーが多くなっていると思うので、市場のダイナミクスが変化しつつある今、トレーディングデスクは、非常に難しい舵取りを迫られている。