天然ガス価格が国家レベルの問題になってきた

欧州天然ガス市場の混乱を受けてEU当局が対応策を真剣に検討している。通常天然ガスの価格については、欧州のTTF(Title Transfer Facility)、アジアのJKM(Japan Korea Marker)、米国のHH(Henry Hub)を見るが、中でもTTFの動きが特に激しい。おそらく銀行のリスク管理者であれば、これが巨額のマージンコールを引き起こしているため、日々モニタリングしていることだろう。

TTFとJKMのスプレッド取引なども良く行われる取引だが、TTFをICE、相対でJKMのように取引していると巨額のマージンコールがかかる。もはや天然ガスは有担保で取引するのが不可能なくらいに市場変動が激しくなっている。欧州では当局と取引所の経営陣との間で盛んにミーティングが開かれているようである。3日前の9/7には、急増するマージンコールに焦点をあて、天然ガス市場の安定策が話し合われたようだ。

あまりの価格変動が生じているため、市場を閉鎖すべきとか、取引可能な価格帯を制限するといった意見まで聞かれるようになってきた。市場を閉鎖すればマージンコールの問題はなくなるだろうが、ヘッジ取引ができなくなる。どうしてこのような案が真剣に検討されているのかよく分からないが、せいぜいサーキットブレーカーのような価格制限をかけるくらいしかできないと思う。

効果が期待できそうな策としては、CCPの適格担保に銀行保証を加えるという案である。これであれば、実際に現金担保が必要なくなり、銀行が信用供与をする形になるため、流動性は悪化しない。EMIR上銀行保証であるLCは既に担保として使えるが、現金担保に裏付けられていなければならないとされている。したがって、結局現金が必要になるので、あまり意味がない。この制限を緩めれば銀行が信用供与をすることで、マージンコールの負担を和らげることができる。

銀行が融資をしてその資金を担保に出すのなら、銀行が信用状をCCPに出しても、信用リスクという観点からはあまり差はない。現金が入ってこないので、その資金を使いまわしたりすることはできないので、ファンディング上は不利だが、昨今のマーケットをみると、これが最も実効性があり、かつ容易に実施できる施策なのだと思う。

高騰する電力価格が一般消費者の生活を脅かしているため、天然ガスの確保はもはや国レベルの問題になりつつある。政府が保証状を出しているケースもあるとまで報道されている。ロシアの動向が天然ガス市場に大きく影響を及ぼしているが、国レベルで補助金を出すとか、エネルギーの節約を求めるほかに、デリバティブ取引にかかるマージンコールを保証するというのも、有効な政策の一つになりうるかもしれない。