会計方針が銀行の命運を決める

マーケットは、SVB(シリコンバレーバンク)の話で持ち切りだ。規制強化によって銀行破綻は起きないものと思っていたが、思わぬ騒ぎが銀行株の急落を招いている。とは言っても同じことは世界中で起きており、各国の生保、各国の地銀や中堅銀行など、金利上昇によって保有債券価値が極端に下がっているところは極めて多い。単に財務諸表上で未実現損失を抱えているだけなら持ちこたえられるところを、預金引き出しやマージンコールが起きると保有資産の売却を余儀なくされ、危機が現実化する。

コロナショック後の過去3年くらいの間に金利が低下し、多くの預金が集まってきたが、それを全額貸し出しに回せず、相当な資金が債券投資に向かった。FDICの統計によると、米国では2020年頃から4.2兆ドルもの資金が預金として集められたが、そのうち貸し出しに回ったのはたった10%程度とのことである。残りのうち約2兆ドルが債券投資に振り向けられている。以前は全体の債券投資額が4兆ドルだったことを考えると約50%増となったことになる。

結果的にその後の金利上昇により、これらの投資はマーケットのピークでエントリーしたことになり、損失額は0.6兆ドルと見込まれている。同時期にJPMなどは0.7兆ドルの預金を増やしたが、債券投資は0.2兆ドル程度しか増えていない。しかし、バンカメなどは増えた預金がほとんど債券投資に回っているようなので、銀行によってかなりばらつきがあるようだ。

日本の銀行にも外債投資からの損失報道があったことから、同じようなことはグローバルで起きている。しかし、債券の場合、これを時価評価するかどうかにすべてがかかってくる。昨年末に台湾の生保が債務超過に陥っているという報道があった。その後当局が会計手法の変更を認め、時価評価が免除され、債務超過を免れた。一部のリスクマネジャーからはいんちきだと言われたが、債券の場合、最後まで持ち切れればパーで償還される。特にリスクが高い債券ばかりが保有されていた訳ではなく、米国債や高格付の社債が多かった。確かに時価損失は出ていたものの、それで台湾の生保をデフォルトさせる意味はあまりない。金融危機時に、日本ではCVAを時価評価していなかったために損失が出なかったのと似ている。

株式やハイイールド債、仕組債などには確かにリスクがあるが、米国債のような資産を多く保有していても、今回のような経営危機が起きてしまう。確かに銀行であればもう少しきちんとしたリスク管理をしておくべきだったが、同じような状況にありながら会計方針が異なるために難を免れているところも多いものと思われる。CVAの時もそうだったが、つくづく会計というのは重要である。

また、保有債券を売らなければならない事象が発生する場合にも注意が必要だ。銀行でいうと預金引き出し、生保や年金などのリアルマネーでいうとマージンコールだろうが、これはデリバティブ取引をしているときに限られる。今回のケースをリーマンショックになぞらえる意見も出ているが、銀行全体というよりは、一部の銀行に限られた動きになるものと思われる。