中国のデリバティブ市場の盛り上がり

中国のCallable債が売れている。HKで発行されるCNH(Offshore Deliverable)の点心債(Dim Sum Bond)に中国本土からの買いニーズが高まっている。Callableというと台湾のFormosaの例があるので、金利のVegaなど、マーケットへのインパクトが気になってしまう。台湾の例では、ドルの長期のベガを抑えるインパクトが大きかったため、台湾の規制などの動向によって米金利市場が大きく変動した。

Callableの場合は、発行体が早期償還をするオプションがついているので、以下のような式になる。

Callable債の価格=通常の債券価格-オプションの価値

通常金利が上がれば債券価格は下がるのだが、オプションの価値も下がるのでCallable債の下落幅はマイルドなものになる。通常Callableの発行が増えると、Swaptionを売ってYeild Enhancementを行う動きが出る。中国CNHの場合は、通貨スワップによってCNHをUSDに交換し、通貨スワップに対するオプションを売る。通常通貨スワップのVolの買い手は少ないので、売り一辺倒になってしまうが、ここにヘッジファンドが買い手として現れている。

中国本土と香港間の債券相互取引であるBond Connectが2017年から始まっているが、香港から中国への投資をNorthbound(北向通)、逆をSouthbound(南向通)という。最近では、クーポンの高い不動産会社の債券に流れていたSouthboundの資金が、Callable債に流れているようである。Southboundが始まったのは2021年9月なので、極めて短期間の間に取引が増えている。

点心債は信用力の高いグローバルバンクが発行するものが多く、クーポンもCallableにすることによって1%程度高くなることもあり、中国本土の資金がかなり流れてきているようだ。

取引の流れとしては、発行体が債券発行によって得たCNHを通貨スワップでUSDに倒す。通貨スワップではCNHの固定金利を受けてそれを投資家にPass throughし、USDの変動金利を支払う。そしてその通貨スワップのSwaptionを売ってYeild Enhancementを行う。
CNHUSDの通貨ベーシスが拡大すれば高いクーポンを提供できることになる。この通貨スワップのSwaptionにヘッジファンドの資金が流れ、Swaptionのマーケットが広がりつつある。

米金利が下がり、中国元が減価するとCNHのImplied Yieldが高くなる。また、中国オンショアとオフショアの金利差が開くと、クーポンが上がるためSouthboundの取引が増える。ヘッジファンドはこの辺りの市場の動きを予測することにより利益を上げているようだ。これに、中国市場におけるプレゼンスの大きい欧州の自動車会社の売り上げ減による、通貨スワップの減少などの要素も加わり、マーケットダイナミクスが複雑になる。

中国経済時代は停滞の兆しがみられるものの、市場開放努力は着々と進められており、金融取引自体は未だ世界の投資家の興味を惹きつけているようである。