レバレッジ比率の計算から国債が除かれる日は近い?

前FED副議長のRandal Quarlesが、米国債市場の流動性改善のため、米国のレバレッジ比率であるSLRの規制緩和を主張している。感染拡大期にSLRの分母から米国債と連邦準備預金を除いた一時的免除を、恒久措置とすべきという主張だ。このところ各政府高官からSLRの改訂についてのコメントが多く出ていることから考えても、そろそろ何らかの緩和措置が発表されるのではないだろうか。

2020年には大規模金融緩和が行われ、米国債市場は極度に膨張した。銀行が保有する米国債も大きく増えたが、あまりに大きなポジションを抱え続けるとSLRが悪化してしまう。そこで先ほどの一時的免除措置が行われたわけだが、市場の期待も空しく1年後に期限が切れた後は、それが延長されることはなかった。その代わり、今後米国債市場を支えるために様々な見直し作業を行っているとう発表もあり、市場は将来の規制緩和を予想した。

一時的免除措置が有効だった時期には大手米銀のSLRは約1%程度改善していた。SLRが最大の制約となっている銀行もあることから、これはかなりのインパクトだ。もしこの緩和が行われると、米銀としては、積極的に国債の取引をすることができるようになる。ポジションを持てるのであれば、価格急落時には逆を取りに行くこともできるだろうし、マーケットメイク能力が拡大する。結果的に流動性が上がり、顧客サイドも売りたいときに売る、買いたいときに買うということできるようになる。

これでリスクが増えるかというと、銀行としてはリスクの高い債券の保有が増える訳ではなく、それでも信用力と流動性の高い米国債の保有が増えるだけである。なぜ直ちに緩和しないのかわからないくらいである。

Randal Quarles氏の後任のMichael Barr氏も、銀行の資本水準については懸念していないといったコメントもみられることから、おそらくQuarles氏と同じような考えを持っているものと思われる。ここで重要なのは、日本や他の国が歩調を合わせるかということである。グローバル銀行は、米国SLRだけが緩和されれば、まずはバランスシートを米国債に割り当てる。日本国債を持つよりは米国債を持つ方が資本対比の利益が大きくなるからだ。ひょっとしたら米国債の流動性が上がる一方、日本国債の流動性が下がってしまうかもしれない。

米国が金融引き締めを行えば円安が加速するのと同じで、海外の規制は日本にも及ぶ。すべてはバランスが問題だからだ。リーマンショック後は海外に比べ日本の金融緩和が遅れたために、急速な円高を招き企業倒産も増えた。レバレッジ比率の見直しなどについても、国際的な流れを見ながら機動的に動けるようにしておくことが望まれる。