マージンコールは銀行貸し出しで

投信ファンドを担保に資金を借り、マージンコールに充てるというスキームの検討が進んでいると報じられている。2022年の英国債ショック時に、マージンコールに応えるために国債の売却を余儀なくされた経験を踏まえて、様々な対策が検討されている。

確かに、市場変動が起きるたびに、与信リスクをカバーするために拠出していた担保を売却するのは現実的ではない。大手であれば国債のレポで資金調達がある程度可能だが、中小ファンドではこれは難しい。レポ取引に対しては、昨年の英国中銀からのCRO向けレターにおいて、ヘアカットやレポのリスク管理強化が求められており、市場に徐々にその影響が表れ始めているような気がする。こうした状況の中、中小ファンドが、ファンドの資産を裏付けに資金調達できるのであれば、市場の安定化にも繋がる。

ただし、レポのような標準的な商品ではないため、GMRAのような標準契約が使えず、相対のローン契約を結ぶ必要がある。今後のためにも、何か標準マスター契約のようなものができれば、利用が拡大するかもしれない。要はマージンコールに備えた担保付きのコミットメントラインのようなもので、急な流動性ニーズに応えるものである。その性質的にも、デリバティブカウンターパーティーが負担するよりも、流動資産を潤沢に持つ銀行が対応する方が理にかなっている。

日本でも同様だが、銀行と証券、あるいは、ローンとデリバティブ取引の間には、何かPhilosophyの違いのようなものがある。それほど頻繁に起きるわけではないものの、銀行だと、支払いが滞った場合には、若干猶予を与えたり、支払いについて交渉が始まったりすることがある。一方デリバティブ取引の場合は、不払いがあれば即座にデフォルト通知を送り、ISDAのタイムラインに従ってポジションクローズとなる。これはFXや為替取引の追証の対応と同じだ。時間的に猶予を与えていると、その間に市場変動が起きて損失額が膨らむ可能異性があるというのが主な理由だろう。

銀行ローンの場合は、少しくらい猶予を与えたからと言って1億円のローンが1億2千万円に増えたりはしない。よくデリバティブカウンターパーティーが苦境に陥った時に銀行の担当者からトリガーを引くのを少し待ってもらえないかという話が出ることが多いが、このような猶予が認められるケースは少ない。

しかし、年金基金やファンドは、急激な市場変動に備えて、巨額の現金を保有しているとファンドのリターンが下がってしまうため、流動性のある資産は極力少なくし、できるだけ投資に資金を回せるようにする。マージンコールのたびに資産を売却していてはあまりにも非効率である。

そして、金融危機の経験から、レポ取引については当局の懸念も大きいため、着々と規制強化が行われている。金融機関サイドも、規制強化によって膨らんだレポの資本コストやバランスシートコストをカバーすることができず、できるだけレポのラインを絞ろうとするのは当然の流れとなっている。

したがって、極力ファンドが持っている資産を担保にマージンコールに応えるための資金を銀行から調達するというのが、最も理にかなっている。事業会社であれば、在庫や売掛金担保でコミットメントラインを確保すればよい。

金融市場を安定させようと思うと、カウンターパーティーリスクを減らすために変動証拠金に加えて当初証拠金を増やすのが手っ取り早い。CCPでクリアされた取引でも同じようにVMとIMが求められている。ただ、事業会社やファンドがそのために現金を確保しておくのは困難であるため、このような担保付ローンは一つの大きな解決策となろう。