スワップのノベーションはどのように行われるか

通常ヘッジファンドや海外の年金ファンド等は、いくつかの金融機関と取引を行うが、取引解約時にはNovationが行われることが多い。デリバティブの世界のNovationは簡単に言うとカウンターパーティーの交替である。自分の契約をだれか別の人に譲渡するということだが、結局その際に取引相手が変わることになるからだ。

日本ではこうしたファンドは少ないのだが、世界のデリバティブ市場においては、全体の取引量のかなりの部分はヘッジファンドやアセマネがマネージするファンド経由になっており、流動性に大きな影響を与えている。本気でスワップをやろうというのならこうしたファンドとの取引は避けて通ることはできない。これは円スワップでも同様である。

取引頻度が多いため、ノベーションやアロケーション、担保決済、電子取引、取引報告等の事務が煩雑になり、それをサポートするシステムやオペレーションフローが必要になる。こうしたシステムやオペレーションがネックになっているのか、言語の問題なのかよくわからないが、ファンドとの取引先は外資系がメインになっている気がする。

通常ファンドは複数の銀行にクォートを求めるので、複数の金融機関と取引をすることが多い。例えば以下のようにA、B、C、Dとそれぞれ1、2、3、4件のスワップを持っている例を想定する。

この場合、真ん中のヘッジファンド(HF)が利益確定のため全部の取引を解約しようとした場合、AからDの各銀行にそれぞれの取引解約を依頼するようなことはせず、すべての取引を示した上で全部を引き受けてくれる銀行を探すことになる。ここでAが提示したすべてのパッケージのプライスが良くコンペに勝ったとすると、ノベーションが行われ、以下のような関係に変わる。AはHFとの取引一つを解約し、残りの取引はHFが抜ける形(Step out)になる。例えばBから見るとカウンターパーティーがHFからAに変わったという形だ。HFがStep out、AがStep inし、BがRemaining Partyとなる。

レバレッジ比率規制や証拠金規制やOISディスカウントがなかった頃は簡単で、こうしたノベーションが即座に行われていた。現在では、AにとってはB、C、Dと取引を持つことになるため、レバレッジ比率の計算に入れなければならなくなり、証拠金規制対象のファンドであれば証拠金が増えるかどうかのチェックもしなければならない。また、ディスカウントの差などをチェックするために、それぞれとの担保契約(CSA)の確認も必要である。金融危機直後は、こうしたチェックのために回答が遅れてトラブルになることもあったかもしれないが、最近は理解が進んでいるようである。

ただし、CCPによる清算集中が進んでからはこれが楽になった。こうした手間を省くため、清算集中規制の対象になっていないヘッジファンドサイドも自主的にクリアリングをするようになっている。CCPを通じたフローの場合、ノベーションが行われた後すぐにCCPで清算されるため、当初の図のHFがCCPに変わったような形になる。

そしてこの後、ABCDそれぞれがCCPに持っている他のポジションと合わせてコンプレッションが行われ、これらポジションが削減されていくため、レバレッジ比率への影響も少なくなり、ポジションが極端に偏らない限りCCPに対する当初証拠金への影響も軽微となる。ディスカウントはCCPがしてする標準的なディスカウントになる。

CCPでの清算ができな通貨スワップやスワップションについては引き続き従来の問題は残るが、取引の大部分を占めるスワップについては、かなりフローが確立してきた。

ヘッジファンドというと何か日本ではハゲタカ的なイメージがあるが、こうしたファンド勢は市場の流動性向上には不可欠な存在になっている。日本でも資産運用の機運が高まり、ファンドが増えてくれば、こうした取引形態を行うところが増えてくるかもしれない。本邦でもノベーションなどの事務フローを海外並み高度化していかないと、世界に後れを取ってしまうだろう。

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