コモディティCCPの安定性

各種CCPで起きたことについては概ね把握してきていたが、今回のLMEのニッケルほどの混乱は無かったように思う。確かにデフォルトが発生して清算基金が毀損されたわけではないのだが、金利やCDSのCCPの仕組みを主に注視してきた身からすると、コモディティの取引所については、まだまだ改善点が多い。

LME(London Metal Exchange)は、ロンドン金属取引所と訳され、1877年に設立された非鉄金属専門の先物取引所である。銅、鉛、スズ、亜鉛、アルミニウム、ニッケル、アルミ合金などが上場されているが、今回はロシアのウクライナ侵攻を機にニッケルの価格が250%もの上昇を見せた。2022年3月4日までは$29,000程度だった価格が3/7の月曜には$48,000まで上がり、その後3/8には$100,000を超える水準まで高騰し、何と全取引を取り消すという手段に出たのである。期落ちの現物受け渡しも延期され、約30年ぶりに取引が停止されることとなった。3/8は午後3時前くらいだったと思うが、わずか数分で$30,000急騰し、3時には$100,000を超えたのである。これはゲームストップ株のようなショートスクィーズがニッケルで発生したようなものである。個人投資家が趣味で取引しているゲームストップ株とは異なり、ニッケルは電気自動車の電池の主要原料となっているような重要なコモディティである。

その後3/16には5%の値幅制限を設けた上でロンドン時間8時に取引が再開されたが、システム上の問題で直ちに取引が停止された。17日は8%、18日は12%と徐々に値幅が拡大されているが、毎日混乱ばかりである。来週月曜は15%へと拡大される。一方上海先物取引所の方はそれほど大きな混乱もなく日々取引が続けられているので、こちらの価格が今後のLMEの価格の目安になっている。現状LMEが$36,915、上海が$34,413と7%差まで近づいているので、日本は祝日だが月曜の動きが注目される。LMEの立会場で行われるリング取引があまり約定していないので、決済価格が決まらず先送りになっている契約も多いことが予想される。

そもそも何故250%もの価格変動を許す形になっていたのかという疑問も残るが、従来の価格変動からすると予想外の動きだったのだろう。さすがにここまで変動するとマージンコールで問題が多発するのは目に見えている。金利の世界ではCCPの当初証拠金についてはかなりの議論が行われているが、コモディティとなるとどこまで精査されているかが定かではない。NASDAQクリアリングの電力取引の例はあったが、当局の関心も若干薄かったのではないかと思う。また清算集中規制がないため、取引所取引の他にOTCでどのくらいの取引が行われているかもわからない。他の商品のようなSDRへの報告、リアルタイムレポーティングなどもないように思う。つまり、ポジションを大きく傾けているかどうかは清算取引だけを見ていてもわからない。OTCのポジションまでを把握する義務や権利が取引所にあったかどうかも不明である。

今後はこうしたコモディティについても取引所の仕組みやマージンモデルについて、幅広い議論が必要だろう。