コモディティの証拠金

ニッケルや欧州の天然ガスなど、市場変動があまりにも激しい取引がコモディティには多い。生産者や商社にとっては価格ヘッジをすることは重要なのだが、本来ヘッジしているはずでも証拠金の額が膨大になり、破綻の危機に瀕するという可能性がある。取引所取引の場合は、証拠金をなくすことができないので、相対で無担保取引をしたいというところが増えてきても不思議ではない。

とはいえ、ヘッジ取引を提供する銀行の方も無担保で取引をすると突然大きなリスクを抱えることになってしまう。当然リスク管理部門からは、市場変動が激しいのだから当初証拠金(IM)の水準を上げるよう指示が入ったり、無担保取引を有担保にしたいというニーズがある。

銀行の信用枠を使うというのが一つの解決策だが、あとはポジションを減らすしかない。だが、それにはコモディティ取引を行える金融機関が絶対的に足りない。資本規制上もあまり有利な商品ではないので資本コストもかかる。

昨今では、急激な市場変化を受けてVaRが大きくなる傾向があり、VaRベースで計算しているIMの水準も大きく跳ね上がっている。特にコロナショックやロシアのウクライナ侵攻を受けたコモディティ価格の乱高下など、VaRで管理しきれない市場変動が頻発している。2022年のLMEのニッケル価格のような変動に備えてIMを設定すれば、取引自体が不可能になってしまう。

そして、単に保守的なIM金額を設定してしまうと、市場変動が生じた時のIMとVMの合計額がカウンターパーティーの純資産を大きく超えていたということにもなりかねない。複数のディーラーと取引をしているカウンターパーティーの場合は、全体の取引量とIMの量を見積もり、それが会社の担保拠出能力の範囲内に収まるのかどうかを確認する必要がある。

コモディティ取引の場合は、スポット価格が大きく動く一方、フォワードの価格はそれほど動かないということが多い。何らかの供給不安があれば短いところの価格は大きく動くが、1年先や2年先のフォワード価格については、生産能力や輸送能力を調整することができるので、比較的穏やかな動きになる。したがって、一度に100万トンの取引をするのではなく、毎月10万トンを10か月のようにタイミングを分散させるのも重要である。つまり全体の金額というよりは1か月にどのくらいの取引をするかというのが重要になってくる。

CCPや取引所においても、こうした時間軸で取引量を絞るということが必要なのかもしれない。