クライアントクリアリング業務は持続可能か?

米国のG-Sibスコア計算方法変更をめぐるアナウンスメントに注目が集まっているが、最大のサプライズは、クライアントクリアリングに関する提案だった。クライアントクリアリングには欧州で一般的なPrincipal Modelと米国で始まったAgent Modelがあるが、Principal ModelではCCPと顧客の間にクリアリングブローカーが入ることになるが、Agent Modelでは、取引自体はCCPと顧客の間に立ち、クリアリングブローカーはその取引をAgentとして保証するだけである。

従来G-SIBsスコアの計算上は、規模指標計算(相互連関性と複雑性スコア)に、Principal Modelの場合は対CCP、対顧客で2つの取引が存在するとして計算が行われる。一方Agent Modelでは、このような二重計算は行われなかった。このため、業界団体は、欧州のCCPでも、米国と同じようなAgent Modelを使えるようルール変更ができないか模索してきた。Principal ModelからAgency Modelへの変更が行われるのではなく、両モデルが並行して使えるような方向性が検討されているという話を聞いていた。LCHもAgency Modelを用意し、日本の顧客を含めてかなりのクライアントがAgency Modelを利用しているものと思われる。

ちなみに日本の場合は「取次」という方法が使われ、Principal ModelとAgency Modelの中間のような扱いになっており、どのような資本計算が行われるかは各銀行の判断によって異なる。しかし、概ねAgency Modelのような扱いをしているところが多いのではないかと推測される。

しかし、Agency Modelの計算方法が変わると、これまでの議論が白紙になる。日本のクライアントクリアリングをAgency ModelとしてG-Sib計算を行っていた銀行があれば、今回の計算方法変更に伴って日本の金利スワップ市場にも影響が及ぶかもしれない。

クライアントクリアリングを行った際に、銀行が対CCPの取引と対クライアントの取引の二つをエクスポージャーとしてカウントしなければならなくなると、現状のクライアントクリアリング業務の収益性では、業務撤退の動きが出てくるかもしれない。本来システミックリスクを避けるためにCCPが作られ、そのためにクライアントクリアリングによってほとんどの取引をCCP経由にするという目的のもと、相対取引からCCP取引へのシフトが起きた。

しかし、当初の予想と異なり、クライアントクリアリングにかかるリスクを思ったより考慮しなければならないルールになったため、クライアントクリアリングを提供するコストが上昇し、すでにいくつかの大手銀行がこの業務から撤退している。クライアントクリアリング業務を行うディーラーが減ると、たとえば大手顧客や大手銀行が破綻した場合には、誰もそのポジションを引き受けることができなくなり、CCP自体がToo big to failとなってしまう。

もしこのインパクトがG-Sibスコアのみに影響を与えるというのであれば、資本賦課は増加するものの、何とか吸収できる範囲なのかもしれないが、その影響度合いは各銀行によって異なる。また、どの程度その資本コストを顧客に転嫁できるかによっても異なる。その意味では何事においても最終価格に反映させるのが難しい日本へのインパクトも無視できないのかもしれない。コメント期間は11/30までとのことなので、今後の議論に注目が集まる。