アルケゴス破綻の教訓

3月に破綻したアルケゴスの$5.5bn lossについての調査レポートが発表された。165頁の大作だが、興味深く一気に読んだ。リスク管理に携わる人にとっては必読のケーススタディだろう。ここまであからさまにすべてをさらけ出すというのもすごい。レポートの中では個人名は出ていないものの、その後の報道では登場人物の名前がすべて明らかにされている。様々な問題点が指摘されているが、個人的には審査部の若手の以下のコメントがすべてを集約しているように思う。

“Where am I going with this? All of the people that I would trust to have a
backbone and push back on a coverage person asking for zero margin on a heaping pile are gone. The team is run by a salesperson learning the role from people that do not include the folks I listed above. I don’t consider PS Risk the best first line of defense function anymore.”

フロントでリスク管理をするFirst Line of Diffenceが全く機能していない。担当者の事故死という不運も重なったものの、リスク管理の人員削減とJunoirizationによって、収益がリスクに優先してしまったという典型例である。もともとArchegosを担当していたカバレッジセールスをリスクのヘッドに就任させるというのもセンスがなさすぎる。

もう一つ重要だと思ったのは信用リスクと市場リスクの分断だ。審査部はカウンターパーティーの信用力は取引戦略については詳しいが、その市場リスクについては市場リスク部門の範疇になる。しかし、このアルケゴスのようなデフォルトになると、信用リスクと市場リスクの両方に精通した人材が必要となる。信用リスクに懸念があるなら、カウンターパーティーにヘッジを促すか、自らヘッジ取引を行う必要がある。審査部には自らヘッジをする機能はないので、そこはXVAデスクの範疇となる。

本来はフロントのリスク部門がきちんと管理をすればよいのだろうが、審査部、市場リスク管理部、フロントリスク、XVA、資本賦課を見る部門と責任の所在があいまいになっていたがために、ここまでの巨大エクスポージャーを負ってしまった。

最終的には9人の解雇と$70mmに及ぶ金銭的ペナルティという責任が課せられている。これは日本で行われる減俸なんて甘いものではなく、既に払われたボーナスの返還も含まれている。リスクに携わる人間にとっては非常に大きな警告だ。

なお、この報告のRecommendationとして、XVAデスクの機能拡充が唄われているのが興味深い。アルケゴスのような当初証拠金を取る会社についてもCVAを計算すべきと書かれている。確かに証拠金の充分性の検証、資本賦課の最適化、デフォルトまでのプロセス管理、契約面、ポジションのクローズ、ヘッジ取引の執行などのすべてのExpertiseを持っているのはXVAデスクである。これからはますますXVAの重要性が高まっていくのだろう。