XVAデスクの優劣が金融機関の命運を握る

CVAから始まった各種評価調整だが、今やFVA、KVA、MVAとその対象が広がり、XVAと総称されるようになった。これに応じてCVAデスクの役割が広がり、ファンディング、担保管理、コンプレッション、資本計算など、あらゆる業務において中心的役割を果たす様になってきている。そして各金融機関が自身のポートフォリオを最適化するため、リスク削減と資本効率化のためにあらゆる管理を行っている。

以前はCVAを計算していない銀行にリスクの大きな取引を押し付けるという逆選択の問題が生じたが、今や一見リスクがないような取引についても、ファンディング、資本のBenefitを求めて様々な取引が行われている。つまり、クレジットリスクではなく、ファンディングや資本効果において新たな「逆選択」の問題が起きているのである。こうした取引は普段から単純なNovationの形をとって現れ、リスクがないからといってトレーダーが経済的に見合わない取引を受けてしまうことが起きている。特にこうした計算ツールを持たない金融機関に望ましくないポジションが溜まってきてしまっている。

例えば、担保契約上の適格担保が異なればデリバティブのプライシングは当然違ってくる。担保に円現金を受けている場合と、JGBを受けている場合ではその取引時価が異なる。CVAの場合は、クレジットリスクを取るという意味でもう少し分かりやすかったのだが、JGBを担保に受けている時に、現金担保と同じ前提で取引を積み重ねてしまうと資本効率が悪くなり、ROEが下がる。効率性など気にせずにシェアだけを求めている銀行には関係ないのだろうが、デリバティブのプライシング慣行を歪めてしまう上、今後の資本規制のもとでは大きな問題となりかねない。

SA-CCRを適用した場合の資本コスト、欧州の事業会社に対するCVA資本賦課免除の行方など、不透明な部分は大きいが、こうした規制資本動向を全く考慮せずに日々の取引をプライシングしている銀行は、数年後にROEの低下に悩まされることになるだろう。

今後SA-CVAモデルに移行していくと、全てのSensitivityが考慮できるわけではないので、これをどうプライシングに反映させていくかは、やっかいな問題である。海外大手行はAdvancedモデルから単純なモデルへの変更となり、資本効率も悪くなってしまう。とは言え、今まで何もしていなかった銀行にとっては、先進的なCVAシステムがない中でSA-CVAに対応していくというのも困難が伴うものと予想される。BA-CVAという選択肢もあるが、資本効率を考えるとやはりSA-CVAを適用するというのが自然な考え方だろう。

そしてCVAモデルに対するガバナンス強化も重要になってくるため、システム投資も欠かせない。現在日本において、例えばCVAのベガのSensitivityを日々計算できるところがいくつあるのだろうか。CDSの流動性がない日本において、Proxy Spreadを構築するMethodologyを確立し、当局承認まで取っているところがどこまであるのだろうか。

更に今後はLIBOR改革が控えており、来月27日にはEURのCCP割引率が、10月にはUSDの割引率が変更になる。これに合わせて各種ポートフォリオの変更が行われることになるが、当然CVA、FVA、KVAにも影響が生じる。こうした詳細を把握することなくLIBORからの移行が進むと、いつのまにか損をしているということになりかねない。CSAの変更はおそらく今年から始まると思われるが、これに際してXVAを正確に考慮した上で契約変更をできるところはどれくらいあるのだろうか。またFVA計算に用いるスプレッドにLIBORが考慮されているところは、LIBOR改革によって大きなPLインパクトが発生する可能性がある。

そして、Phase 5の1年延期が決まったとは言え、証拠金規制の動向もMVAに影響を与える。一部ではMVAをプライシングに入れる動きが見られるが、水面下ではMVAの大きな取引を、他社に移管しておこうという動きも見られる。

こうしたXVAを巡る様々な変化と進化を考えると、高度なXVAデスクを持たない銀行は、竹やりで戦闘機に立ち向かっていくようなものである。CVAについてはようやく国内での認知度が高まっており、日本のクオンツ部門やXVA専門部門の方々の理解度は他国に比べてもかなり高い。違うのは、こうした人達の声が上層部まで届かず、組織内での重要性が広く認識されないということなのかもしれない。CVAだけにとどまらず、XVA全般的の進化を進めていかないと、日本はまた金融の進歩から取り残されてしまうのではないだろうか。

コメントを残す