綱渡りの米金融政策

米国FRBから流動性規制の緩和とも取れる発言が目立つようになってきた。表面上は規制を緩めるというトーンにならないように細心の注意を払っているように見えるが、流動性逼迫時に銀行が現金を市場に放出しやすい様に工夫を凝らしているようだ。

パウエル長官が上院議員に宛てた書簡の中で、米国債を連邦準備金と同様に扱っても良いのではないかと述べている。当然国債の場合は資金が必要な時には現金化する必要があるので、流動性という意味では現金に劣るため、銀行はストレスシナリオを考えるときには、現金を選好するが、FRBとしてはこれを完全に現金同等として(Fully Substitutable)扱うことができるように考えている。銀行は流動性の多くを市中からではなく中央銀行に頼るようになってしまっているが、この状態が長く続くと金融機能が麻痺してしまうという危機感の表れだろう。

LCR(流動性カバレッジ比率)のHQLA(高品質資産)の定義上は、連邦準備金と米国債がともにレベル1に分類されているため、国債の流動性を上げてもLCRに影響はないが、ストレステスト時の扱いを変えることによって市場に影響を与えようということのようだ。パウエル長官のコメントの趣旨を詳細に理解するには、Randall Quarlesのスピーチが非常に参考になる。これを読むと、流動性危機時には、Discount Window(連銀貸出)を使うことによって、FRBが国債を担保に資金提供をすることを保証することによって、銀行がストレスシナリオにおいて国債を現金と同等に扱えるようにするというプランになっている。

これと同時にFRBは9月から続いている資金提供プログラムの更なる縮小を発表した。翌日物のレポ取引を通じた資金供給額の上限を1200億ドルから1000億ドルに引き下げた上、ターム物(2週間)のレポ取引を通じた資金供給額の上限も従来の300億ドルから250億ドルに引き下げる。

市場予想よりは少し大きい縮小だが、まだ市場に大きなインパクトを与えるほどにはなっていない。夏に向けてさらに縮小が続くだろうが、この影響を緩和させるために、どう軟着陸させるかということにFRBは苦心しているように見える。