クリアリングブローカー不足がそのうち問題になるだろう

米国債及びそのレポ取引の清算集中規制導入の議論に注目が集まっているが、考えれば考えるほど無理があるように思えてきた。もともとレバレッジ比率などの改善によって、最大のネックとなっている資本コストが下がることから市場流動性が向上すると思っていたのだが、どうも昨今の規制の方向性としては、クライアントクリアリングビジネスに対して厳しい。

多くのバイサイド顧客が自らメンバーとなってクリアリングに参加し、相応の負担をするのであれば問題ないかもしれないが、今の議論だとFCM(Futures Commission Merchant)であるブローカーに対する負担が重すぎるように見える。

DTCCのホワイトペーパーによると、このクリアリング規制よって一日1.63兆ドルもの取引が新たにクリアリングされるだろうとのことである。内訳はレポが$500bn、Reverse Repoが$520bn、国債の現物が$605bnである。もし多くのバイサイドがFCMを通じてクリアリングに参加しようとすると、数少ないディーラーが各種コストを負担した上でサービス提供することになる。

10年前にクライアントクリアリングビジネスが生まれた時には予想できなかったのだが、このビジネスの収益性は資本コスト対比かなり低い。にもかかわらず、顧客からの要求は結構厳しい。もともと規制で義務付けられていることなので、そのサービスを提供してもらって当然感覚もあるのかもしれない。規制が強化されてコストが上がっても手数料引き上げは非常に困難である。

燃料や原材料費の急騰によってラーメン屋の廃業が相次いでいるというニュースがあったが、それと同じ状況だ。ラーメンを1500円とか2000円にすることができないから撤退するのと似たようなことが、クリアリング業務にも起きているように思う。

クライアントクリアリングにかかる資本規制強化は留まるところを知らず、資本賦課は上がり続けている。CCPの流動性が足りなくなった時に、一定の流動性提供も義務付けられている。そのために一定の資金を常時準備しておくか、そのような場合に資金手当てができるようにラインを作っておかなければならない。そしてこの偶発流動性提供に対しても資本賦課がかかる。

こうしたコスト高から、採算が合わないということでクライアントクリアリングから撤退したディーラーも多い。残っているところも、業界のために続けているのか、あるいは重要顧客に対して途中で辞めるとも言い出せず、仕方なく続けているところもあろいう。

特に年間の取引量が少ないところや、取引が一方向に偏るところでは、クリアイング難民が生まれてきているように思う。この状況で清算集中義務を課せば、かなりの混乱が予想される。米国はもう少しブローカーが多いのかもしれないが、日本のJSCCでクライアントクリアリングサービスを提供しているのは現状6社のみだ。これで100社以上の顧客にサービスを提供しているのだから、そのうち一社に何かあった時に、決められた2日の期限内に残りのブローカーに直ちにポジションをポーティングできるかどうかは定かではない。

もしクリアリング規制を強化するのであれば、全体としてのシステミックリスクが発生しないように、市場のキャパを広げる施策を同時に打つ必要があるのではないだろうか。一日1.63兆ドルというのは並大抵の金額ではなく、それに付随する資本や義務付け流動性供給などのコストはかなりの負担になる。少なくともクリアリング規制と資本規制強化のバランスを入念に精査する必要があろう。